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「ミカンにレーザーを当てるんです、そうすると、物質によって違う光がはね返ってくる、カロチノイドならカロチノイド特有のシグナルが出てくるわけです」カロチノイドは、果実が太陽の光をどれだけ受け入れているか、ということの目安になる。
果実が成熟するには太陽の光を吸収することが必要なのだが、逆にいうと、成熟すれば太陽光はそれほど必要でなくなる。 つまり、カロチノイドの量を測ることは、その果実の成熟の過程を測ることになるのだ。
「太陽をいっぱいに浴びれば浴びるほど、甘くておいしいミカンになるわけです、でも、かといって、あまり熟れすぎてもダメ、カロチノイドのシグナルの変化を追っていき、それがある強さになったときが、いちばんの食べ頃というわけです」ところで、ひとくちに「おいしい」というが、ミカンの場合、何をもって「おいしい」とされるのだろう。 「味の好みは人それぞれだからいちがいにはいえませんが、ミカンの味はとても単純なんです、要は、甘さと酸っぱさのバランスですね、甘さを分子に、酸っぱさを分母にした比と、カロチノイドのシグナルの強さが、いい相関をもっているんです」余談だが、ミカンには皮と実の間にすきまのあるものがある。

水分が蒸発すると実が小さくなってすきまができるそうだ。 実がパンパンに詰まっているものは酸っぱいが、すきまがあるものも品質としてよくないらしい。
いまのところ、一般の人がおいしそうなミカンを選ぶには、産地を見て「ブランド品」を買うしかないのだが、Tさんはラマン分光器をもっとコンパクトに改良して、家庭で使えるようにしたいと話す。 さらに、「じつはミカンを足がかりにして、次はメロンの味も測定したいとひそかに思っているんですよ」と、まだ研究中のメロンについて、こっそり教えてくれた。
ミカンと違い、メロンは味に当たりハズレがあると、むしように腹が立つほど一個あたりの値段が高い。 「だから、メロンのおいしさが科学的に測定できるようになれば、農家の人にも買う人にも喜んでもらえるでしょ、ただし、メロンというのは味がひじょうに複雑で、ミカンのように甘い、酸っぱいというように、単純には測れないのです」メロンには、貝のうまみの成分であるコハクサンという物質が微量に入っており、それがメロンの味を微妙に変えるという。
もちろん、カロチノイドも関係しているが、「コハクサンを抜きに、デリケートな味は測れません」とTさん。 「最近では何日ごろが食べどきだと表示してあるメロンが多くなってきましたが、たとえば、メロンに貼ってあるシールの色が変わると、食べ頃だとわかるような確実なものができればと考えているんです」ところで、K県の名産であるミカン、メロンとくれば、ゆくゆくはスイカも、ですか?「いや、スイカというのは水に砂糖が入っているといっていいくらい味が単純だから、たたいてみれば十分、それに、じつはぼく、スイカが好きじゃないんです、あんなものが研究室に百個もあってはたまりませんよ」かつて牛肉といえば、とてつもなく賛沢な食べものであった。
いまではほとんど死語となった「ビフテキ」を、レストランで食べることが一種のステイタスだったり、食卓ですき焼きの「肉」を争う兄弟ゲンカがくりひろげられていたのは、もはや昔の話である。 いまはスーパーやデパートの食料品売り場に安い輸入牛肉やチルド輸送のオージービーフが並ぶ、いい時代になった。

一方、和牛の値段は相変わらず高い。 しかし「肉と脂が口の中でとろける極上の味わいは和牛独自のもの」という熱烈な和牛ファンも多い。
同じ「牛」であるのに、なぜ、これほどの価格差や味の違いがあるのだろうか。 「和牛のいちばんの特徴は脂肪がマーブリング状に混ざっていることです、私たちはこれをサシといってます、すき焼きやしゃぶしゃぶの肉は、適度に脂肪が入り、しかも柔らかくないとおいしくないのです」と話すのは、農林水産省畜産試験場・胎生発育研究室室長のSさん。
日本の肉牛は、肉の柔らかい若いメス牛をどんどん太らせ、脂肪を入れて高級牛にする、という伝統的な方法が明治以降とられてきた。 「和牛のなかでも、黒毛和牛がいちばん高級といわれていますが、これは明治維新以後にできた品種です、耕運機がわりの役牛を品種改良して作りました」古くから日本にいた小型の牛では、農業の近代化に適応できないため、ヨ−ロッパから体の大きい牛を連れてくることになった。
両者をかけ合わせ品種改良したものが、現在の神戸牛、松阪牛などの始まりだという。 グルメをうならせる高級牛も、当初は作業用として開発されたのだ。
「本格的な肉牛の開発が始まったのは、高度成長期の昭和35年頃。 肉牛関係者は、これを和牛維新と呼んでいます」その後、日本の肉牛生産は飛躍的に進歩していく。
高度成長期と科学技術の進歩が一致し、よりおいしいもの、より豊かな食生活をめざしていったのだ。 さて、ここから先はちょっとびっくりするような話。
じつは和牛は、血統第一主義ともいうべき特別な方法で生産、飼育されているのである。 「畜産の分野では人工授精技術がひじょうに発達しています.肉質のよい種牛を選んで、優秀な遺伝子を意図的に残していくんです、現在、人工授精される黒毛和種のメス牛は60万頭ぐらいいますが、これに種付けするオスは約1500頭、過去の成績などを基準に評価した選ばれた1500頭です」オスとメスの数が極端に違うのは、オスから採取した精液は凍結保存をすることができ、それを発情したメスに種付けするためである。
この方法だと、年間1万から2万頭もの子どもをメス牛に生ませることができるという。 「優秀なオス牛の選び方ですが、精液は一歳ぐらいからとれるので、実際にその精液を使って子どもを作り、子どものできをみて判定しています、1965年には家畜改良事業団という精液を専門に販売する組織も作られました、優秀な種牛は、一生のうちに5万から10万頭もの子どもを残しますよ、もちろん、近親交配による不良な遺伝形質が出ないように、5代ぐらい前までさかのぼって、オス牛とメス牛の系統を管理しています」まるでサラブレットなみの気の遣いようだ。

ただし、サラブレットは人工授精が認められていないので、一頭の種馬が作る子どもは、年間せいぜい50頭。 牛の遺伝子はサラブレットの約200倍の高率で残されていく。
「今後の課題は、メス側からのアプローチですね、というのも、メス牛の妊娠期間は280日と長いんです、自然のやり方だと、年に一頭しか子どもを生ませることができません、これを科学の技術で改良していこうと…」人間の体と同じく、牛の排卵もホルモンがコントロールしている。 通常、21日ごとに発情して排卵するが、多量のホルモンを注入することによって、多くの受精卵を作ることが可能だという、Sさんがいうには、「排卵誘発剤を使って多くの卵子をとり、これを借り腹出産で生ませます」借り腹出産とは、人間でいえば代理母のようなものだ。
しかし不妊症など、やむにやまれぬ事情のある場合に限られる人間とは違い、和牛の世界では、血統のいい父親と母親をかけて作った受精卵を、あえて他の牛の体で生ませている。

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